SBT (ソウルバウンドトークン)とは、「譲渡・売買をすることのできないトークン」のことを指します。トークンが個人に永久に紐づけられるため「魂に紐づいたトークン」とも呼ばれています。
本記事では、SBTとNFTの比較(共通点・違いの紹介)、用途・事例について分かりやすく解説していきます。
SBT (ソウルバウンドトークン)とは
新たなトークンの形として、ソウルバウンドトークン(Soul Bound Token、以下「SBT」)というものが登場しています。SBTとは、「譲渡・売買をすることのできないトークン」のことを指します。トークンが個人に永久に紐づけられるため「魂に紐づいたトークン」とも呼ばれています。
SBT と NFT の比較
SBTとNFTは、いずれも「非代替性(それぞれが一意であり、他のトークンと置き換えることができない性質)」を持つ点で共通しています。一方で、SBTは、「譲渡・売買」ができない点でNFTと異なっています。
SBTは、web3時代のデジタルIDとしての活用が期待されています。証明書資格、信用などと紐づけて発行し、そのウォレットを保有する個人のアイデンティティを示すことができます。
SBT 誕生の背景
SBTは、2022年以降に生まれた新しい技術・概念です。
2022年1月、ブロックチェーンの基礎として知られる「Ethereum(イーサリアム)」の提唱者であるヴィタリック・ブテリン氏が、自身のブログの中で、譲渡や売買できない形のNFT(Non-Fungible Token)という新しい概念を提示しました。その書き込みでは、これまでのNFTが取引可能で「富」を表すものとされてきました一方、譲渡できないNFTが持つ価値や可能性について述べられています。
同年の5月には、ブテリン氏と共にエリック・グレン・ワイル氏とプジャ・オールハーバー氏が、「Decentralized Society: Finding Web3’s Soul」という論文を公開し、譲渡・売買不可能なSoulbound Token (SBT)の特性、社会的な役割、使用シーンについての議題を展開しました。
(参考:「Decentralized Society: Finding Web3’s Soul」)
これらの現状を踏まえブテリン氏などが構想したのが、インターネット上の仮想人格である「Soul」から他の「Soul」への譲渡不能(Soulbound)な特性を有するトークン「Soulbound Token (SBT)」です。SBTは、匿名であったとしても所有者自身に関する情報を表すことになるため、所有者のアイデンティティーの証明になり得ると考えられています。
SBT の特徴
SBTの特徴を3つの点から紹介します。
1. 譲渡・売買できない
ソウルバウンドトークンは、その名前が示すように、特定の個人やエンティティに「結びつけられた」トークンです。これは、一度発行されると、他の人に譲渡することができないという特性があります。これにより、デジタルアセットのセキュリティと信頼性が向上し、偽造や改ざんが防止されます。
2. デジタルIDとして機能する
SBTはデジタルIDとしての役割も果たします。これは、ブロックチェーン技術を基盤として構築され、データの透明性と不変性を提供することから生じます。この機能により、デジタル世界での身元確認とアイデンティティの保証が効率的に行えます。
3. シビルアタックを防げる
SBTは、シビルアタックからの保護も提供します。シビルアタックとは、一人の攻撃者が多数の偽のアイデンティティを作成し、ネットワークやシステムを悪用する攻撃を指します。これは、デジタルIDとして機能し、その所有者のデジタルアイデンティティを保証することから生じる特性です。これにより、デジタルコミュニティのセキュリティと信頼性が向上します。
SBT の用途
上記のような特徴を持つSBTは、各種証明書、企業・組織の文書など、幅広い分野での活用が期待されています。
1. 各種許可証・証明証(例:運転免許証・パスポート)
SBTは、各種の許可証や証明証のデジタル化と管理に革命をもたらす可能性があります。例えば、運転免許証やパスポートなどの公的な許可証を考えてみましょう。これまでの紙ベースの許可証は、偽造や改ざんのリスクが常に存在していました。一方、SBTを利用することで、これらの許可証をデジタル化し、一度ブロックチェーンに記録されると、そのデータの改ざんが非常に困難になります。
SBTの技術の導入により、許可証の管理が大幅に効率化され、オンラインでの確認や更新が迅速に行えるようになります。これは、行政サービスの向上や市民の利便性の増加に直結します。さらに、国際的な許可証や証明証の交換もスムーズに行えるようになるため、国際的なビジネスや旅行の際の手続きも大幅に簡素化されるでしょう。
2. 卒業証明書
SBTは、デジタル卒業証明書の作成にも利用される可能性があります。これまでの卒業証明書は、紙ベースで発行されることが一般的でしたが、SBTを利用することで、卒業証明書の管理と確認が効率的に行えるようになります。
デジタル卒業証明書の導入は、教育機関や企業での人材採用プロセスを劇的に変革する可能性があります。例えば、卒業証明書の確認作業がオンラインで瞬時に行えるようになるため、人材採用のプロセスが大幅に短縮されます。また、デジタル卒業証明書は、学生自身が自分の学歴データを管理し、必要な時に簡単に提供できるという利点があります。
さらに、SBTを利用したデジタル卒業証明書は、偽造や改ざんのリスクを大幅に減少させることができます。これは、SBTがブロックチェーン技術を利用しているため、データの信頼性と透明性が保証されるからです。
3. 企業・組織文書のデジタル化
企業・組織における文書のデジタル化の推進において、SBTは非常に有効なツールとなり得ます。契約書や報告書などの重要な文書をデジタル化し、SBTの形式で管理することで、文書の安全性が大幅に向上します。一度SBTで記録された文書は、改ざんや偽造が非常に困難となり、その信頼性が高まります。
また、企業視点では、SBTを活用した場合、ブロックチェーン上に改ざん不可能な情報として保存されることになるため、売上等の経営に関する信憑性を高めることができます。
4. 出生証明書
SBTは、デジタル出生証明書の作成に利用される可能性があります。これまでの紙ベースの出生証明書と異なり、デジタル化された出生証明書は、データの偽造や改ざんを効果的に防止できます。これは、SBTがブロックチェーン技術を利用しているため、一度記録されたデータは変更が非常に困難であるという特性があります。
この利用法は、行政手続きを大幅に効率化し、市民の利便性を向上させることができます。例えば、出生証明書が必要な手続きがオンラインで簡単かつ迅速に行えるようになります。また、デジタル出生証明書は、紙ベースの証明書と比べて環境に優しく、ペーパーレス化を推進する一環としても有効です。
さらに、SBTを利用したデジタル出生証明書は、国際的な認証やデータ交換がスムーズに行えるという利点もあります。これは、SBTがグローバルな規格として採用されることで、国際間のデータ交換が容易になるためです。
これらの用途は、SBTを活用したデータ管理の効率化とセキュリティ向上により、多くの分野での革新的な変化をもたらす可能性があります。また、SBTはこれまでとは異なる新しい価値創出の方法を提供し、多くの分野での効率化と便益をもたらすことが期待されます。
SBT の懸念点
SBTの懸念点としては、以下の6つの点が挙げられます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1. プライバシーの侵害
SBTは、個人のデジタルアイデンティティを表すため、プライバシーの侵害が懸念されます。これは、個人情報が不適切に取り扱われたり、第三者に漏洩したりするリスクがあるためです。例えば、ある企業が顧客のSBTを不適切に利用した場合、顧客のプライバシーが侵害される可能性があります。この問題を理解するためには、NFTのようなデジタルアセットがどのように個人情報を保持するかを理解することが重要です。
2. デジタルアイデンティティの悪用
デジタルアイデンティティの悪用も大きな懸念点です。SBTが個人のデジタルIDとして機能するため、これが悪用されると、個人の安全やプライバシーが脅かされる可能性があります。例えば、犯罪者が他人のデジタルアイデンティティを悪用して詐欺を行うことが考えられます。これを防ぐためには、SBTのセキュリティ対策が非常に重要となります。
3. 過去の履歴に縛られる可能性
SBTは、デジタルIDとしての役割を持っています。それはポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報も履歴に残ることを意味します。アイデンティティが明確になることはプラスですが、過去に過ちを犯した場合、その情報に必要以上に縛られる可能性が懸念されています。
4. ウォレット自体の紛失や乗っ取り
SBTは譲渡不可能なNFTなので、まず盗まれる心配はありません。しかしSBTを保管するウォレット自体は、アクセスできなくなったり乗っ取られたりする可能性があります。将来的にweb3の利用が拡大すれば、SBTは様々なサービスに統合されることもありえます。すなわち、SBTを保管するウォレット自体の紛失や乗っ取りのリスクもあると言えます。一方で、こうしたリスクを低減するために、顔認証・指紋認証などをはじめとする生体認証を、ウォレットの利用時・復元時に利用する仕組みの開発・実装も進んでいます。
5. 技術的な不安定性
技術的な課題もSBTの導入における懸念点として挙げられます。これは、SBTの技術基盤やインフラストラクチャがまだ発展途中であるため、技術的な問題やバグが発生する可能性があることを意味します。これにより、SBTの機能やセキュリティが損なわれるリスクがあります。技術的な課題を理解するためには、ブロックチェーン技術の基本的な知識が必要となります。
6. 未確立な規制・法制度
SBTは新しい技術であり、その規制や法的枠組みがまだ確立されていないため、法的な問題や紛争が発生する可能性があります。これは、SBTの導入と普及を困難にする可能性があります。規制の問題を理解するためには、現行の法律や規制がデジタルアセットにどのように影響するかを理解することが重要です。
以上のような懸念点がありますが、これらの問題を解決するための努力が行われています。SBTの導入と普及は、これらの懸念点を克服するための技術的な進歩と規制の枠組みの確立が必要となります。
SBT の将来性
SBTが、これから私たちの社会にどのような変化をもたらすかを見ていきましょう。
1. 身分証明の簡易化・安全性の向上
SBTは、新たな身分証明の方法を可能にします。個々のデジタルトークンが特定の情報(利用者の身分や資格情報など)を確認する能力を持つことで、我々の身分を証明する新しい手法が生まれます。
これまで、私たちの身分を証明するためには、パスポートや運転免許証などの物理的な書類が必要でした。また、オンライン空間での身分証明も中央集権型のプラットフォームに依存していました。
SBTは身分確認プロセスをデジタル化し、分散化します。プライバシーが保護され、書類の紛失や盗難のリスクを減少させます。SBTの普及により、オンラインでの身分証明が簡単で安全になるでしょう。また、身分証明が必要なあらゆる取引やサービスが便利になります。
2. デジタルコミュニティの分散化を促進
SBTは、コミュニティ分散化を広範囲で促進する可能性を持っています。これにより、デジタルコミュニティの管理と運営はより透明性と公平性があり、利用者が投票や意見を持つことが容易になります。
これまでのインターネット社会は中央集権的で、デジタルコミュニティの運営や決定は一部の人々や団体によって管理されてきました。
SBTをインターネット社会やコミュニティにおける一つの個人の証明書として利用することで、一人の個人によるアカウントの複製を抑制し、コミュニティ参加者による投稿・投票・合意形成が、より透明性と公平性をもった形で行われます。
SBTの普及により、デジタルコミュニティの運営方法が変わり、我々がインターネットを利用する方法に大きな変化をもたらすでしょう。
まとめ
SBTは「魂に紐づいたトークン」の名の通り、特定のユーザーに永続的に結びついたトークンとして機能します。その特徴から、SBTは、各種証明書、企業・組織の文書、NFTアートなど、幅広い分野での活用が期待されています。その一方で、この新たな技術の全ての可能性を探求するにはまだまだ研究と開発が必要です。SBTが私たちの生活にもたらす変化に期待しつつ、今後も動向を追っていきましょう。
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