ロイヤルティマーケティングとは
ロイヤルティマーケティングとは何か?
ロイヤルティマーケティングは、顧客のロイヤルティ、つまり企業に対する顧客の忠誠心を高めるマーケティング手法です。ロイヤルティマーケティングでは、顧客が企業やブランドに対して持続的な関心や愛着を持ち、継続的に製品やサービスを利用することを促進することを目的としています。
顧客ロイヤルティとは?
顧客ロイヤルティとは、顧客が特定のブランドや企業に対して持つ、強い信頼や愛着のことを指します。これは、顧客が一度利用したブランドやサービスに対して、再度利用したいと思う気持ちや、他の選択肢がある中でもそのブランドやサービスを選び続ける動機とも言えます。
「ロイヤルティ(Loyalty)」と「ロイヤリティ(Royalty)」
これら2つの言葉は似ているため、混同されることも多いのですが、意味や使う場面は全く異なります。ビジネスの中では、「ロイヤルティ(Loyalty)」は「忠誠心・帰属意識」、「ロイヤリティ(Royalty)」は「権利の使用料」を指します。本記事では、「ロイヤルティ(Loyalty)・マーケティング(顧客によるブランドへの忠誠心を高めるマーケティング手法)」と呼びます。
■「ロイヤルティ(Loyalty)」(発音は[lˈɔɪ(ə)lti]、ロイヤ「ル」ティに近い響き)
「ロイヤルティ(Loyalty)」は、「忠誠心・帰属意識」の意味を持ちます。マーケティング用語として「顧客ロイヤルティ(ブランドへの忠誠心・愛着)」、人事用語として「従業員ロイヤルティ(企業への忠誠心・コミットメント)」として用いられます。
■「ロイヤリティ(Royalty)」(発音は[rɔ́iəlti]、ロイヤ「ル」ティに近い響き)
「ロイヤリティ(Royalty)」は、「権利者への報酬や利益」の意味を持ちます。(「Royalty」は「王族・王権の気高さ」の意味も持ちます)ビジネス用途として、「商標権・特許権・著作権の使用料」のことを指し、「ロイヤリティフリー(商標権・特許権・著作権の使用料が掛からないこと)」として用いられます。
鍵を握る「ロイヤルカスタマー」
ロイヤルティマーケティングを成功させるためには、企業・ブランドへ愛着を持つ「ロイヤルカスタマー」が鍵を握ります。
「ロイヤルカスタマー」は英語で「Loyal Customer」であり、直訳では「忠実な顧客」という意味を持ちます。上述のように、顧客ロイヤルティを高めることにより、企業・ブランドはロイヤルカスタマーを増やしていくことができます。
ロイヤルカスタマーは、具体的には以下のような行動をしてくれる顧客を指します。別の言葉では、伝道者・アンバサダー・真のファンということもできるでしょう。
- 企業・ブランドの思想、商品・サービスに共感している
- 長期的に、頻度高く商品・サービスを利用する
- 自ら進んで周囲の人に対して、商品・サービスの魅力を伝える
顧客ロイヤルティを高めるには?
顧客ロイヤルティ醸成に必要な心理・行動のアプローチ
顧客ロイヤルティを高めるには、「心理的なロイヤルティ」と「行動的なロイヤルティ」の双方向のロイヤルティを向上させ、「真のファン」にしていくことが必要です。この真のファンとは、ブランドの商品・サービスの魅力を理解し、そして単価・頻度高く利用するとともに周囲にも魅力を伝える「アンバサダー(伝道者)」とも言えます。
「心理的なロイヤルティ」を高めるには、商品・サービス自体の魅力や、企業の生い立ち・思いを伝えることが必要です。ただし、それだけでは、実施の購入・利用には結び付かないことも多くあります。
一方、「行動的なロイヤルティ」を高めるには、商品・サービスの価格設定やプロモーション施策が重要です。しかしこうしたある種表面上の売買の関係だけでは、一時的な購入・利用につながっても、将来的に利用し続けてもらうことはできません。また、周囲の人にブランド、商品・サービスの魅力を伝えてもらえる可能性は低いでしょう。
このように、真のファン・アンバサダー(ロイヤルカスタマー)を育てていくためには、心理・行動の双方からロイヤルティを高めるアプローチが不可欠なのです。
従来のファネル型マーケティング手法との違い
従来は、ファネル型マーケティングと呼ばれる、広告やプロモーションを通じて多くのリードを獲得し、販売に結びつける手法が主流でした。しかし、ロイヤルティマーケティングは、既存の顧客のロイヤルティを高め、長期的な関係を築くことに重点を置いています。ロイヤルティマーケティングでは、継続的な利益と、企業の持続的な成長を支えるのです。
ロイヤルティマーケティングの効果・メリットは?
ロイヤルティマーケティングの最大の目的は、顧客のロイヤルティを高めることです。ロイヤルティマーケティングにより、ロイヤルティの高い顧客をできる限り増やし、安定した顧客基盤を作ることが、将来的な企業・ブランドの発展に繋がります。
ロイヤルティマーケティングの効果・メリットを3つの視点から見ていきましょう。
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上
顧客ロイヤルティを高めることで、「頻度高く単価高く」「継続的に」商品・サービスを利用してくれるようになります。その結果、LTVの向上が期待できます。
- 「頻度高く単価高く」利用 ロイヤルカスタマーは、企業の商品やサービスに満足しているため、頻繁に利用します。また、信頼している企業であれば、高価な商品やサービスも安心して購入する可能性が高まります。
- 「継続的に」利用 ロイヤルカスタマーは、企業に対して強い信頼を持っているため、他社のサービスに切り替えることなく、長期間にわたってサービスを利用し続けます。これにより、企業は安定した収益を確保することができます。
CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得)の低減
企業へのロイヤルティが高い顧客は、企業の商品やサービスの魅力を周囲の人にも伝えるアンバサダーとなり、企業のブランド価値やイメージを役割も担ってくれます。近年、企業からの一方的な宣伝広告の効果が薄れ、顧客が価値観の合う人・身近な人からの双方向な情報を信じる傾向が高まる中、顧客を通じて新たな顧客を効果的に呼び込んでくることができるため、CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得)を下げることにも繋がるのです。
さらに、ロイヤルカスタマーが自発的に情報を共有するコミュニティを作り出すこともあります。また、企業側の働きで、コミュニティサイトやSNSを活用したファンコミュニティを通じてマーケティングを行う「コミュニティマーケティング」も登場しています。こうしたコミュニティが、新規ファンの呼び込みと定着の役割を果たし、効率的に新規顧客の獲得につなげることもできます。
コミュニティ・マーケティングについて解説した記事も併せてご覧ください
ブランドイメージの向上
顧客ロイヤルティの高い顧客が、ブランドの魅力を拡散し、その結果、ブランドイメージが向上する効果も期待できます。
顧客ロイヤルティの高い顧客から情報は、実体験に基づき解像度が高いため、周囲に人にとっても信頼性が高いものとなります。また、ロイヤルティが高い顧客ほど、周囲の人への口コミや、SNSなどのインターネット上での投稿・評価の発信を積極的に行う傾向にあります。結果として、ロイヤルカスターが信頼性の高い多くの情報を発信することで、企業のブランドイメージが高まり、より多くの人々がその企業の商品やサービスを利用するようになります。
顧客ロイヤルティ向上の方法・秘訣
目指すはカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上
顧客ロイヤルティ向上の鍵は「カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上」です。CXは顧客が商品やサービスを利用する過程での体験全般を指し、これがポジティブであればあるほど、顧客はそのブランドやサービスに対してのロイヤルティが高まります。
CXの重要性
CXは、顧客がブランドに対して感じる印象や信頼感を形成します。顧客が喜びや満足を感じる体験を提供することで、ブランドへの愛着やリピート購入が促進されます。逆に、不快や困惑を感じさせると、顧客は離れていきます。
CXを向上させるための3つの手順を見ていきましょう。
(1)顧客の特性・思考・行動の把握
顧客の特性や思考、行動の把握は、顧客が何を求め、どのような点で満足や不満を感じるのかを理解するスタートポイントです。
- データ収集: 顧客の購買履歴、利用履歴、アンケートやインタビューなどからデータを収集します。
- データ分析: 収集したデータを分析し、顧客のニーズや行動パターンを明確にします。
(2)カスタマージャーニーマップの作成
カスタマージャーニーマップは、顧客が製品やサービスに接触する最初の瞬間から購入、使用、評価までのプロセスを可視化するツールです。
- タッチポイントの特定: 顧客がブランドと接触するポイントを特定します。
- 感情のマッピング: 各タッチポイントで顧客がどのような感情や反応を持つかをマッピングします。
(3)具体施策の決定
顧客の特性やカスタマージャーニーマップを基に具体的な施策を計画します。
- 施策の設計: 顧客の期待に応える施策を設計します。
- 施策の実施: 設計した施策を実施し、顧客に対して価値を提供します。
- 施策の評価: 実施した施策の効果を評価し、改善点を見つけ出します。
顧客ロイヤルティ向上のためには、顧客の特性やニーズを正確に把握し、それに基づいてCXを向上させる施策を計画・実施することが重要です。これにより、顧客はブランドに対しての信頼や愛着を持ち、長期的な関係が築かれます。
ロイヤルティマーケティングの実践方法|ロイヤルティプログラム
ロイヤルティマーケティングを実践する代表的な方法に「ロイヤルティプログラム」があります。「ロイヤルティプログラム」をわかりやすく表現すると、顧客のCXを高め継続的な購入・利用を促すような戦略的な仕掛けが詰まった「おもちゃ箱」と言えるでしょう。
では、「ロイヤルティプログラム」では、どのような仕組み・仕掛けが取り入れられているのでしょうか。「ロイヤルティプログラム」を構成する3つの視点から見ていきましょう。
(1)会員制・ランク制の設計
会員制・ランク制は、顧客の購買行動やブランドエンゲージメントを形にする仕組みです。
- 会員制: 顧客が会員になることで、特定のサービスや特典を受けられるようになります。会員制度を設けることで、顧客のデータを正確に把握し、パーソナライズされたサービスを提供できます。
- ランク制: 顧客の活動量や購買履歴に応じてランクを設定し、ランクが上がるごとに受けられる特典を増やすことで、顧客のモチベーションを高めます。
(2)リワード(報酬)獲得条件の設計
報酬獲得条件は、顧客が報酬を得るために必要な行動を明示し、その行動を促進する要素です。
- 明確な条件設定: 報酬を得るための条件を明確かつ達成可能に設定し、顧客が目標に向かって行動しやすくします。
- 多様な条件: 上記で挙げた多様な報酬獲得条件を設定することで、様々な顧客との接点を増やし、エンゲージメントの機会を拡大します。
<具体例>
- 情報取得
- アプリ利用
- アンケート回答
- 来店・購入
- イベント参加
- 評価・投稿
- コミュニティ貢献
- 友達・知人紹介
- 他ブランド利用
(3)インセンティブの設計
インセンティブは、顧客が行動を起こす動機となる報酬や特典です。
- 直接的インセンティブ: 金銭的な報酬(ポイント還元、割引、クーポンなど)を提供し、顧客の購買意欲を刺激します。
- 間接的インセンティブ: 特別な機会やステータスを提供し、顧客のブランドへの愛着や誇りを高めます。
<具体例>
- ポイント還元率UP
- ポイント獲得
- 割引・クーポン
- 称号・表彰
- 限定情報・コンテンツ
- コミュニティ参加権
- 特別商品購入権
- 特別イベント参加権
- その他(先行権など)
施策リリース後の実施と評価
これらの3つの要素を組み合わせてロイヤルティプログラムを設計・リリースした後には、その効果を定期的に分析・評価することが重要です。プログラムの改善点や新たな施策のアイデアを見つけ出し、顧客ロイヤルティの向上を図りましょう。
ロイヤルティマーケティングの具体施策は、顧客の行動を促し、ブランドへのロイヤルティを高める要素が詰まっています。プログラムの設計から実施、評価まで、一貫した戦略と顧客理解が重要となります。
ロイヤルティマーケティングの限界・課題
このように顧客の行動を促し、ブランドへのロイヤルティを高めるために取り入れられているロイヤルティプログラムですが、課題も抱えています。本記事では、3つの課題を紹介します。
アプリやサイトが分断されている
従来のロイヤルティマーケティングでは、多くの企業が独自のアプリやサイトを使用しています。そのため、顧客にとっては、企業ごとに別のアプリやサイトを立ち上げ、顧客視点でも何度も会員登録や個人情報利用の同意をしなければなりません。こうした手間の積み重ねが、CXを低下させ、企業へのロイヤルティ醸成の障害となるのです。
得られる情報・行動に制限がある
顧客の行動データは、主に自社アプリやプラットフォーム内でのものに限定されます。企業視点では、自社で取得できる情報は断片的であり、顧客理解の深さ・幅に制約があるため、真の顧客理解は難しいと言えます。その結果、顧客のロイヤルティを高めるための商品・サービスの開発やプロモーション施策が、顧客のニーズとは少しずつズレてきてしまう可能性があります。
ロイヤルティマーケティングにおけるNFT等のweb3技術の活用可能性
web3技術をどのように活用するのか?
(1)デジタルウォレットを接続して、シームレスにアクセス
従来のロイヤルティプログラムは、複数のインターフェイスで構築されており、利用者は、個別にアプリなどをダウンロードしないといけませんでした。
web3技術を用いると、利用者はデジタルウォレットを接続するだけで、別途アカウントを作成することなく、スムーズにロイヤルティプログラムにアクセスできるようになります。この結果、ブランドは、将来のロイヤルカスタマーとの接点を逃すことなく構築することができます。
(2)ブランドの親密度や貢献を表す報酬・称号をNFTとして発行
ブランドは、顧客に対して唯一無二の証明書となるNFTを発行すると、その所有感から顧客はブランドへの強い絆や愛着を感じるようになるでしょう。さらには、特定のNFTを持つ顧客だけに、特別な商品や体験を提供することで、顧客はその特別感からさらにブランドへのロイヤルティを高めていきます。
さらに、NFTを集めたくなる仕掛けを設けると、顧客同士がNFT収集・交換のためにコミュニケーションをとり始めるはずです。このように、NFTを起点に、コミュニティが形成され、ブランドに関する情報交換が活発化し、コミュニティ全体の顧客ロイヤルティが一段と向上でしょう。
(3)NFTを通じて顧客理解を深め、パーソナライズされた体験を提供
デジタルウォレット内の NFTを分析することで、顧客一人ひとりを、より高解像度で理解することができます。ここでは、自社の商品売買のみでなく、他社のサービス利用や情報発信などの様々な場面で獲得したNFTを総合的に分析することで、顧客のことをより多面的に、深く理解できる可能性があります。
そして、個々人にパーソナライズした体験(商品・サービス、プロモーション、報酬・特典)を企業が提供することで、顧客は満足感と特別感を感じ、企業へのロイヤルティを高めます。
web3技術を活用したロイヤルティマーケティングの事例
スターバックス(米国)|Starbucks Odyssey
一例として、スターバックスが2022年12月からスタートした「Starbucks Odyssey」を見てみましょう。このプログラムでは、利用者は「ジャーニー」と呼ばれるブランドへの理解を深める体験を行うことにより「ジャーニースタンプ(NFT)」と「Odysseyポイント」を獲得できます。自身の行動や購買の報酬としてNFTを獲得でき、さらにこの NFTを交換するもできるのです。
2023年現在でも多くのファンがいるスターバックス。スターバックスのNFTを持っているだけでも、ブランドとの繋がりや愛着を覚える方が多いのも頷けるでしょう。さらには、web3技術の黎明期である2022年に発行された記念すべきこれらのNFTは、5年後・10年後にはさらに希少価値が高まっているはずです。今後、スターバックスも NFTを通じた顧客理解・パーソナライズされた体験の提供に踏み出していくことを期待して動向を追っていきましょう。
ランク設計 | •3段階 「Odysseyポイント」の数に応じて3段階のランクあり (1000〜2999ポイント、3000〜5999ポイント、6000ポイント~) |
パーソナライズ | •(アカウントアイコンの設定、今後行動・購買に応じて追加) |
コミュニティ | •あり|限定Discordコミュニティ(会員への招待メール) |
NFT売買 | •あり|NiftyGatewayにて限定デザインのNFT売買可 |
私たちProofXは、web3技術をロイヤルティマーケティングに活用した他の事例についてもまとめた「顧客ロイヤルティを高めるweb3活用事例レポート(2023)」を公開しています。ぜひ合わせてご覧ください。
ProofXの取り組み
私たちProofXは、様々な企業・自治体と連携して、NFTなどのweb3技術を活用したロイヤルティマーケティングに挑戦しています。ProofXの取り組み事例を詳しく知りたい方は、以下からご覧ください。
その中でも、TOPPAN株式会社が受託した北海道庁からの委託事業「NFT(デジタル画像)を活用した周遊促進事業委託業務」において、私たちが提供するweb3ロイヤルティプログラムサービス「ProofX」が活用されています。この事例では、北海道内に点在する世界文化遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」の構成資産および関連資産を周遊することで、オリジナルの訪問記念NFTを入手できるデジタルスタンプラリー「縄文×NFT デジタルスタンプラリー(通称:縄Nラリー)」を2023年10月13日(金)から実施しています。
アプリ画面上ではオリジナルデザインのNFTを確認できるほか、スタンプラリーが進行していく様子を楽しむことが可能です。獲得したNFTを協賛施設で提示することで、施設ごとの特典を受けられるほか、全7つの「訪問記念NFT」の全て集めることで、「制覇記念NFT」を入手出来ます。
この事例のように、まちや観光地のファンを増やす取り組みをはじめ、企業のマーケティング・ブランディングにつなげる取り組みを推進しています。
今後の期待
web3技術の進展とともに、ロイヤルティマーケティングも新たな局面を迎えるでしょう。企業間の連携が進むことで、顧客に対するアプローチが多様化し、より効果的なマーケティングが期待できます。